コラム0074:惑星ソラリス


■ソ連映画

SF映画の隠れた名作、『惑星ソラリス』は1972年のソ連製の映画です。
この映画、SF映画とはいってもあまり派手な画面効果が目立つものではなく、人間の深層心理をテーマとした“哲学的SF”とも呼ぶべきものです。
静かなテンポが精神性の高さを表しており、またソ連製映画という事もあって、ハリウッド映画に慣れた僕にはとても新鮮で独特な視聴感でした。


■あらすじ

21世紀、研究中の惑星ソラリスの軌道ステーションでは原因不明の混乱が起きており、原因究明のため心理学者クリスが地球からやって来ました。
元々ステーションには3人の学者がいたのですが、クリスが到着した時学者の1人は既に自殺、残る2人も様子がおかしい。
さらにクリスは、ステーションの廊下などでいないはずの女性や子供をちらりと見掛けます。
既に聞いていた報告の通り、この惑星では幻覚が誘発されるのか?

不安にかられながらクリスが一睡すると、翌朝、彼の妻ハリーが部屋に現れました。
しかしハリーは10年前に自殺したはず。

実はこの惑星ソラリスを覆う“海”は思考力を持った物質で出来ており、人間の脳内の記憶や潜在意識を取り出して物質化してしまうのです。
クリスは苦悩しながらも、このソラリスの海から生まれたハリーを人間として扱い、クリスとハリーは愛し合います。
しかし2人の科学者達はその事に難色を示します。
記憶から生まれた“複製物”を人間として扱うのが良心的な事なのか? それらを単なる物として扱う事こそが科学者としては正しい姿勢なのではないか。
ソラリスを離れては生きていけない、それでいてソラリスの上でなら何度死んでも生き返るそれらを愛するべきではないのか?
しかし人間らしい感情や良心に基づくなら人間として接するべきではないのか……

クリスとハリー、そして科学者2人は互いに議論し苦悩するのでした。


■ゆったり映画

苦悩に満ちたシーンがゆったりしたテンポで展開されてゆく訳ですから、もしかしてかなり退屈な映画なんじゃないかと思われるかもしれません。
(まあ実際眠くなる映画ではあるかも……)
しかし、この映画には独特の不気味さ、怖さがあります。
映像と効果音の扱い方が非常に幻覚的で精神的に迫ってくるものがあり、クリスをはじめとする登場人物達が精神的に追いつめられてゆく感覚がずっしりと伝わってくるのです。

そして驚愕のラスト! これにはやられました。
ゾッとするものを感じさせられましたよ。

全編、狂気に満ちた臭いが漂っています。幻想的で狂気的な空想世界に浸る事が好きな人には特におすすめ。
凄いぞロシア映画!


(新規 1998.07.17)
(リメイク 2024.01.02)